再び熟成蕎麦について

粗挽き熟成蕎麦



冷たいビールがうまいわけではない…?、という話のちょっとした続きだ。例によって、うまいかどうかという形而下的な話だ。

腐りかけの肉がおいしいのは常識。ご飯も冷めかけだ。炊きたてご飯はたしかに魅力的だ。炊きたてのいい香りがする。が、おいしいかといわれると違うと思う。熱くてハフハフしていると味はわからない。
ご飯を味わうなら、ほどよく水分がとんだ「冷めかけ」だ。
米自体も新米が万能ではないだろう。寿司飯には古米を混ぜた方がうまい。稲荷寿司や天丼に至っては、ポソポソした古米以外は考えられない。

「封切一番」の日本酒はうまくない、とはよく言われることだ。確かに香りが立たない。カドが立ち過ぎてきつく感じられることもある。封切後、一定時間置くことによって、味わい深くなることが多い。
じゃあ、どれくらい置くといいのか?一時間後にあらためて飲むと、すでにかなり変化していることもある。数日後が飲み頃という意見もあるし、一週間という人もいる。その酒によるのだろう。

日本酒の封切といえば、「瓶の真ん中」が一番うまい、という説もある。本当かあ?…
いきなりそんなところに踏み込むような失礼なことはしないし、そういった浮ついた不純な気持で日本酒さんとお付き合いをしたことがないので、わたしにはわからない。一升瓶限定の話なのだろうか?720mlではだめなのか?ワンカップは絶対対象外だろうなあ?振ってから飲むとどうなっちゃうだろう?謎は深まる。

が、なんだか不思議な説得力がある説じゃないか!とても興味があるがひとりじゃできない。でもだいじょうぶだよ。今度、酒好きを集めて試してみよう。封切一番で、一気に5杯注いで貰えばいいんだろう?

三たて蕎麦がうまいのかという疑問」について書いたことがある。
そもそも「新蕎麦」はハテナだ。少なくとも、新そば新蕎麦と騒がれる8〜10月より、2月頃の蕎麦が深みがあってうまいと思う。余談だがこれは牡蠣も同じだ。終わり頃がうまい。
それは別の話として。しっかり保存されてさえいれば、「ひね」が新蕎麦に劣るとは思えない。個人的には「ひね」の方が好きだ。

ま、この程度なら、蕎麦オタの間では衆知の事実でもある。「打ちたて」に関してはどうか?
少なくとも、打ってすぐよりも数時間たった蕎麦の方がおいしい、とは昔から言われている。
そんな話ではない。そのまま寝かせて、三日後、五日後の蕎麦はどうなんだろう?という極めて常識外れの話だ。「熟成蕎麦」というやつだ。

試食(利き蕎麦?)させていただいたことが何度かある。
三日目がいちばんおいしかったときも、五日目のときもあった。今年出会った最もインパクトのある蕎麦は「一日寝かせている」とのことだった。蕎麦自体、製粉方法、打ち方、茹で方、保存方法、いろいろな不確定な要素が混じっての結果なのだろう。

ひそかに「熟成蕎麦」がうまいと思っている蕎麦好きは多いが、蕎麦メディア(そんものがあればだ)も伝えない。それはそうだよね。一般的に「打ちたて」のイメージは強いし、いままでの記事を否定してしまうことにもなりかねない。
製造方法がマニュアル化できないということは、とても商業ベースには乗らないということでもあるので、マスとしての商品価値はないに等しい。それに、「熟成蕎麦」は万人むきでもない。

そう。蕎麦は颯爽と手繰り、新鮮な香りと喉越しを楽しむものだ、と思っている人には絶対にむかない。だから、メニューに出している蕎麦屋もない。こいつ蕎麦好きだな!と店主が思ったら、試しに(そのときに自信作がたまたまあれば)出してみることはあるだろう。

でも、ちょっとでも、蕎麦の風味そのものに興味があったら、粗挽きをやってるような蕎麦屋できいてごらん。「熟成蕎麦はないか」と。今までとは違った蕎麦の世界がひらけるかもしれない。