箱そば百合ヶ丘店と民家園の中途半端な一日
突然、挑戦状を受け取った。
「お前、何でも立ち蕎麦が好きらしいじゃないか。成城と新百合の箱そばがお気に入りらしいじゃないか。俺っちの宿場を頭越しに通り越して、新百合まで行っておきながら、百合ヶ丘を評価しないなんて人の子じゃねえ。さっさと来て喰らってみやがれ、ばかやろう!あれこそ街道一ってもんだ」
彼とは下町に住んでいた小学生時代からの友人だ。四代住んできた浅草を袖にして百合ヶ丘という雛に移り住んでしまったことを、ご先祖様に申し訳ないと思っている、かどうかは知らないが、ますます口が悪くなってきた。それにガキの頃からの時代劇ファンだ。
奴に挑戦されたんじゃしょうがねえや。あっしも好き者の端くれだ。と、行って来たのだ。大嫌いな世田谷通りを通って百合ヶ丘へ。はるばる箱根そばでかき揚げそばを食べるために。
でも不思議だ。少なくとも沿線の箱根そば、通称箱そばは網羅したはずだ。百合ヶ丘駅にあるのは知らなかった。
それもそのはず、探してしまった。だって、改札を出たところの正面にひっそりと、外から隠れるようにあるのだ。これでは駅を降りなければ、自転車で通っただけでは見つけられない。
で、かんじんのかき揚げそばだが、作り方は悪くない。ちゃんとどんぶりも湯煎している。かき揚げも立派だ。ワカメやネギの量もいい。一口汁を飲む。ふむふむ。新百合と経営者が同じなのではないだろうか?一口手繰る。あれ、そばが心持茹で過ぎだ。ちょっと軟らかい。ハードボイルドキャラクターを志向するわたしむきではないのだ。食べ進むと汁の塩気が口に残る。かき揚げの油も気になる。
大まけで☆一つやろう。…。
お前いったいどこで幾らの食べてるの?370円の立ち食いのかき揚げそばだろ!水のコップは細かい洗い傷が入ったプラスチックだろ!等々の声は無視して、あえて言う。残念ながら百合ヶ丘店は、新百合ヶ丘、成城学園前、中央林間の「箱そば御三家」の牙城をゆるがすまではいかないのだ。せっかく、こんなとこまで来たのに。
そう、挑戦されて、せっかくここまで来たのだ。今日は何だかもっと挑戦的を受けたい気分だ。ついでに生田緑地から民家園を見て帰ろう。
確か、生田からはひたすら登りだったはずだ。長〜い登り坂だが、こんな程度は蕎麦屋通いで鍛えたわたしの脚力からすればだいじょうぶだよ。三角乗りでだって楽々だ。たぶん。
民家園に行くのは何十年ぶりだろうと期待が高まる。自転車を置いてさて民家園に入ろう、と、金がない。どうやら500円玉一枚を握りしめて来てしまったらしい。なんということだ。ああ、あなたはまたわたしに試練を与えているのですね…。
そのまま、生田緑地内をうろうろしてから、うなだれて帰る。夕日に照らさせた背中が悲しげだ。
そんなこんなで、今日も一日が過ぎて行く、のだ。