地上最強のかき揚げを求めて

西八王子「いっこう」最強のかき揚げ



今更だが、かき揚げ天婦羅が好きだ。あの宇宙の創世を幻視させる混沌とした状態が好きだからだ。
いろんなものがごちゃごちゃ入ってるのが好きなだけだろう、と中傷されることもあるが、それはまあいい。端に置いておこう。そう言われれば、長崎チャンポン皿うどんは大好きなので、否定はし難い。

今更だが、食べ物は"厚み"を持ってよしとする。厚さに店のオーナーの心意気と料理人の技術を感じるからだ。3センチ以下の厚さのホットケーキなんて、絶対に認めないのだ!
どうせ、味じゃなくて、厚ければ量が多いと思ってるんじゃない、と揶揄されることもある。いやいや、ただそれだけじゃない…、でも…、サイコロステーキのように分厚くても小さいのは好きではないので…このご指摘については…えー…そのお〜…後日にですね…前向きに検討してお答えさせていただきたいと思うものであります…。

というわけで、この際、行きがかり上、かき揚げは"厚さ"が理想であり至上であるとする。理想のかき揚げについては以前書いたことがあるが、なんとこれを越えるものが、山のあなたにあると人のいふ。われひとと尋ねゆかんとメンバーを募れし。

では行きましょう行きましょうと四人のつわものがうち揃い、各々の愛馬を駆って、11:30現地集合時間厳守だからね!とばかり西八王子手打蕎麦処『いっこう』開店を急襲せり。

『いっこう』はずっと気になっていた店だ。でも、蕎麦ポタをするには微妙に遠い。行くのは簡単だけど、帰りの走りが嫌になったらどうしよう、と思っていた。
でも、今や、わたしにはフォールディングバイク「トランキーロ号」という武器があるのだ。嫌になったら、折りたたんで中央線で帰ってくればいいのだ。トランキーロ号を買ったそもそもの目的、"輪行"ってやつだ。

八王子へ行くもっともわかりやすい道が国道20号線甲州街道)だ。でも、八王子方面にはまちがいなく上り坂があるのだ。これはまずい。わたしには「不必要な上り坂は避ける」という主義があるのだ。他の道を探そうじゃないか、というわけで、多摩川をぶらぶらさかのぼって、西八王子までの蕎麦ポタ、いやかき揚げ天婦羅ポタに出かけることにしたのだ。

ついでだからテーマを決めた。
今日のテーマは、多摩川の東京側、いわゆる"多摩サイ"は通らない。連続したサイクリングロードになっていないといわれる神奈川県側だけを走って行こう、ということだ。ほとんどが未知のコースだ。行き着けるのだろうか?

いつものウルトラマン像から小田急線に沿って走り、世田谷通りで多摩川を渡る。二ヶ領宿河原堰でサイクリングロードはなくなる。自動車いっぱいの堤通りは避けて走る。鶴川街道よりサイクリングロードに戻る。ここまでは、まあまあ順調。知っている道だ。

やれやれと思う間もなく更なる難関が待っていた。
府中街道を越えて、川沿いの道を探して進む。南武線を越えたあたりで舗装がなくなる。どうせ輪行の用意をして来たのだ、途中で走れなくなっても、自転車を持って歩けばいいやとかまわず進む。
と、前方から河川監視員のおじさんのスクーターがやって来る。
「この先は行き止まりだよ。昔は何とか歩いて行けたけど、去年の増水以来通行禁止。歩いても無理」
この関は通してなるものか、と押し返されてしまった。

では、さっきみたいに、もう一つ外側を走るかと見渡せば、そこは小高い丘で、ゴルフ場などがあり、川崎街道が走っているようだ。
小高い丘ということは、小峠とはいわないもののまちがいなく上り坂があるに違いない。それでは、「不要な坂は登らない」という主義に反する。

そこで、仕方なく府中街道多摩川を東京側に渡る。・・・・・?今日のテーマに反するんじゃないかって?今日のテーマに反するくらいなら、坂を登ったらどうかって?そういう無慈悲な選択肢がないわけじゃない。でもだいじょうぶだよ。もっと根本的なプライオリティの高い"主義"を持っているのだ。

それは「金の斧主義」と呼ばれている。いかなる場合でも、岐路に立たされたときは、躊躇なく楽な方の道をとらなければならない、という苦しい選択をせまる基本的な戒律のようなものなのだ。主義に従って心中つぶやく。「はい。その金の斧はわたしのです」

とりあえず東京側多摩サイを通り、その後は無事に物事は推移する。あこがれの『いっこう』のかき揚げは噂通り地上最強、しかも500円也とは。その他のつまみも三種類の蕎麦も満足。満腹。
それなのに…

「やはりハシゴですかね」
「そうですね。この際だから」
「でもこの時間でやってるのは…?」
「中休みなしのタヌキの店があるじゃないですか!」
「そうしよう、そうしよう」

でも、その店へ着くために、強風向かい風の多摩サイを含め40キロほど走ることになってしまったのだ。帰りはのんびり輪行のつもりだったのだが…。
物好きのわたしでもこんな遠距離ハシゴはしたことがない。

『いっこう』の場所と、走行距離85キロのGPSログはここをクリック。
が、輪行のために手に入れたトランキーロ号。すでに二ヵ月以上たつが、未だ輪行の経験なし。



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