野川源流をさぐる、初「七彩」でたぐる

ついに野川制覇



好きな言葉「制覇」。といってもたいしたことを制覇するわけじゃない。秘密結社を作って世界制覇とかなわけがない。極めて軟弱。手打蕎麦屋の蕎麦やつまみの全メニュー、日本酒も…程度のていたらくだ。

もう一つある。自転車で全コースを走破することだ。これまた、日本一周とか南米縦断とかの雄大さではない。近所の小川の走破程度なのだ。ロマンの欠片すらない。気負って多摩川制覇といっても、せいぜい河口から羽村堰あたりまでだ。理由は、羽村堰あたりからいきなり登りがきつくなるからだ。これもまた極めて軟弱な理由だ。

で、近くの小川や用水路をちんたら走る。仙川、野川、神田川善福寺川玉川上水あたりが中心。"基本的に"制覇している。
もちろん近所の小川なんてすぐ走り飽きてしまうので、神田川全橋を走破なんてGPSを持って試みたりする。なんたって小川の小橋だ。結果は、GPSの精度の問題で、ちゃんと橋を通ったかどうかなんてわからない。

ま、こんな風に休日が何となく過ぎて行ってしまうのだ。が、実はどうしても越えられない壁にぶつかっていて深く悩んでいたことがあるのだ。書けないけど打てる単語でいうと、内心忸怩たる鬱屈と憂愁の思いにとらわれ続けていたのだ。なぜならば"基本的に"しか制覇していないからだ。

野川源流の地が踏めていないのだ。眼の前に見えているのにたどりつけない、不条理に包まれた城のようなものだ。やっと近づいて周囲をぐるりと回ってみる。でも入れない。あそこに幸せが待っているに違いないのに。
そうなのだ。野川の源流には「日立製作所・中央研究所」の壁がそびえて到達することができないのだ。分け入つても分け入つても高い壁だ。二ヵ所ある入り口ではおきまりの衛兵が検閲をしている。

でもだいじょうぶだよ。その幸い住むはずの日立中央研究所が開いていると人のいう。年に二回だけ。桜と紅葉の季節だけ、日立様が庶民に開放してくださるという。その景観を愛でる機会を下賜されるという。2009年の桜の季節のご開帳は四月五日のみだそうなそうだ。

じゃあ行きましょうよ、とお誘いを受ける。これは野川制覇のチャンスとばかり、鎖帷子模様のTシャツに黒糸威のスウェットに身を固め、がーみん制GPSを入れたてぃんばっくをば斜めに背負い、一寸五分に刈り揃えたばかりの髪を振り乱し、愛馬しえろあすーるでろすあんですに打ちまたがりて、野川花見客を蹴散らしながら、心は一路国分寺・・・・・。

んなわけで、狛江から国分寺めがけて野川をさかのぼったのだ。桜見物の真っ盛りの日曜日。野川は散歩客で一杯。せっかくだからGPSのログを録るのだと、声をかけかけ時には下車しながらひたすら源流に向かう。


桜の枝を折っている子連れのおばはんがいる。
その優雅な立ち居振る舞いに思わずお声をおかけする。
「おばさんよ ガキがまねする やめときな」と。
ババアよりすかさず返歌。
「うるせい放っとけ このばかやろう」
するとガキも口をそろえて「うるせいばかやろう」。もう立派に真似してる。なんという風雅の極み。
たまたま枝を折ってる写真を撮ってしまったが、掲載はやめておく。どこかで見たことのある有名人似だ。あ、この人だ。


あごひげを蓄えた見るからにラテン系の太ったおっちゃんが歩いている。これまたどっかで見た顔だ。携帯が鳴る。着信を確かめて話し始める。
「オラ! ビバ、サクラ!」
いいなあこの挨拶。気に入ってしまった。途中、何度も口に出してみる。
人ごみに自転車を引きながら、おっちゃんと並んで歩いて行く。自然に話が耳に入る。もうすぐ、四年ぶりに母国に帰ってしまうんだって。延長も申請したけど認められなかったらしい。この桜が見られないのは寂しいと言っている。どっかで桜を見ながらワインを飲もうよと誘っている。
話がまとまったようだ。うれしそうだ。日本での最後の花見を楽しんでおくれ。ビバ、サクラ!

はじめて入る日立中央研究所。人、ひと、ヒトだ。はじめて見る野川の源流。特になんてことない。ま、こんなものだろう。いいのだ、いいのだ。目的は唯ただ野川源流を踏むことなのだ。桜は野川流域で見飽きてしまっている。

あまりの人ごみに早々と源流を後にする。次の目的地はやっぱり蕎麦。武蔵小金井『七彩』だ。予定より早めに到着したおかげでまだ空席がある。まもなく満席になる。日立中央研究所の人だかりのおかげだ。今日もついている。この店も初訪問だ。昼のコースを頼む。
これがすばらしい内容だ。

・そばゴマ豆腐
・大根餅の生ゆば吉野仕立て
・盛り合わせ四品
・桜ごはん
・もりまたはかけ
・デザート
で1,650円也。それぞれは少量ながら、全品異なった味付け。手がかかっているのがうれしい。かって前を通りかかったことがあるが、なんだか敷居が高そうで入店しなかった。もっと早く来なかったことを後悔。いい店だ。

帰路はJRに沿って東へ向かい、三鷹より玉川上水を走る。きれいに領地を囲えた。Nさんお誘いありがとう。おかげでいろいろ楽しめたのです。



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