いつもの場所で非日常を楽しむ

焼かりんとう



旅の楽しみは、知らない土地で思いがけない体験をすることだ。いかにして「非日常」が楽しめるかなのだ。

ツアー旅行は嫌いだ。本や雑誌やテレビで知っている場所に行って何が楽しいのかと思ってしまう。時間と金を使って追体験しに行ってもしょうがないじゃないかと思う。しかも、何らかのメディアで紹介されていたよりも、実際に行って自分の眼で見る光景は間違いなくダウングレードしているのだ。いったいどこが「センス・オブ・ワンダー」なのか…。

神秘的幻想的だったはずの地の果ての観光地(そもそも矛盾をはらんだ言い方であり場所だ)では、風景にも歴史にもいかにも興味がなさそうなおばさんたちが、聞きなれた言語で昨日のホテルでの夕食の話をしている。その隣ではアメ横秋葉原や北京やソウルで聞きなれた意味のわからない言葉で、アヒルの様なやかましい声で若者がはしゃいでいる。もちろんそんな場所には、世界中どこでもどんな季節でも見かける半そで毛脛短パンウエスト150センチの中年男女がいるのはデフォルトだ。
何が悲しくてそんな場所にいなければならないんだろうか…。

でもだいじょうぶだよ。旅には違った楽しみ方もある。

旅の楽しみは、良く知った場所へ行っていつもと違った体験をすることだ。いかにして「非日常」が楽しめるかなのだ。

例えばだ。
いつもの店。楽しく盛り上がっている間でも頭の片隅では、最終電車の時間や気が滅入るような混雑、もしくはタクシーのメータの上がり具合を気にしている。会社帰りなので大事な書類が入った鞄を忘れないように…と気を配っている。
だけど今日は違う。銀座のホテルに泊まるのだ。すでにチェックインしてシャワーを浴びてきている。当然鞄なんて野暮なものは持っていなくて手ぶらだ。時間も気にしない。酔い覚ましにぶらぶら歩いて帰ればいいのだ。
これこそ「センス・オブ・ワンダー」。こんな一泊旅行ならば大歓迎だ。

いつもビジネススーツでせかせか歩いている街。車で通り過ぎている街。そんな場所をのんびり自転車で行ったり来たりしてみる。
周囲が良く見える。人の動きが良く見える。こんな所にこんな店があるんだ…お土産に買って帰ろう。これこそ「センス・オブ・ワンダー」。これは絶対、声を大きくして言いたい、自転車でしか味わえない楽しみなのだ。

そう。良く知った街や道を自転車で通ってみる。これはとても楽しいよ。いつも決まったコースを目的地だけを見て嫌々歩いているけれど、途中にちょっと気になる曲がり角はないだろうか? ちょっと入ってみたい店はないだろうか? たとえそれが自分のオフィスの周囲でも自宅の周りでもだ。

昨日は銀座二丁目『三州屋』へ昼酒を飲みに自転車で行った。どうせあの店に飲みに行ったらべろべろになるに違いない。自転車は上野の有料駐輪場に預けて来たのだ。いつもの浜松町ではない。あえて上野にしたのは、次の"ポタ会"のためなのだ。

このポタ会は基本的に、端っことか行き止まりとかの尖った場所を攻めることを主旨としている。
例えば

だ。
で、どんどん走行距離が延びていく。前回の隅田川全26橋制覇のときは、昼食以外の休憩はなく、最後はゴールに向かってひた走ることになってしまった。この反省を込めて、次回は"ポタリング"の原点に戻って「下町を中心に文京区をのんびり走ろう」ではないかということになったのだ。しかも極力走りは少なくして、時には商店街の人ごみを自転車を引っ張って歩いたり、途中で団子やコロッケや焼きそばなどをつまみ食いしながら、だ。
文京区には坂が多いが…坂があれば…坂は押して歩けばいいじゃないか…。

んなわけで、上野に自転車を預け、湯島根津谷中日暮里本郷護国寺あたりをぶらぶらして来たのだ。
もちろんすべて子供の頃からの旧知の場所だ。でも自転車で走るのは始めての場所ばかり。とても楽しい旅の一日だった。
今日は予行練習のそのまた準備なのでGPSログも取らなかった。それは11月の本番の楽しみに取っておこう。

旅の楽しみは、良く知った場所へ行っていつもと違った体験をすること、なのだ。



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