あったまる小説、仁木英之『僕僕先生』

仁木英之『僕僕先生』



いまとても幸せな気分なのだ。

年末から新春。2008年の何とかベスト10とかの本が出回る。何らかの大賞を受賞したり佳作になったり、ウニャうにゃベスト10に選ばれた本も大量に平積みされる季節になった。

いわゆる「受賞作」でおもしろい本との出会いがほとんどなくなった。お偉い文壇の諸先生方がお選びになった歴史ある由緒正しい(らしい)賞の話をしているのではない。"小説好きを自他認める人たちが投票する"というたぐいの、エンターテイメント系の何ちゃら大賞の話をしているのだ。

本が好きと自他共に認める素人が実名で票を入れると、どんどん小難しい小説が選ばれてしまうような気がする。気負っちゃうからだろうか?それもと、単なるわたしの気のせいなのだろうか?
"小難しい"と書いたけれど、おもしろくないというわけではない。ただ、少なくともこれだけは言える、どれも重厚で重苦しいのだ。

歳取ると、こってりした食べ物よりもあっさりした物を多く食べたくなる。それと同じなのだろうか?"りきみ"の少ない、せいせいさばさばした小説が読みたくなってしまうのだ。

でもだいじょうぶだよ。そんなテイストの小説をちゃんと選んでくれている賞がある。「日本ファンタジーノベル大賞」だ。大賞受賞作だけでなく、候補となる作品がどれも…え〜と、なんと表現していいのか、とにかく…「すてき」なのだ。とにかく読んで「もたれない」のだ。

好きな小説がたくさんある。どれも佳作揃いだ。その代わり、残念ながら受賞後ビッグネームになった作家も、なぜか少ないのだ。

ファンタジー小説って、内容のいかんを問わず、ひょっとして少年少女向けのライトノベル扱いされてしまうのだろうか?
小説の主な購買層であるおじさんおばさんは重厚な大感動作品が好きみたいだし、かといって、ライトノベルの主なターゲットである今どきの中高生向きでもない。他にもっと単純でわかりやすいのがたくさんあるからね。

第一線で売れている作家といえば、第一回大賞『後宮小説』の酒見賢一、第二回優秀賞『楽園』の鈴木光司、第13回優秀賞『しゃばけ』の畠中恵あたりだろうか。三作とも同じような匂いがするんだけど、どう?

エ〜、何でこんなこと書いているかというと、ひさしぶりに『僕僕先生』と王弁青年に出会えてうれしかったからだ。仁木英之の新著『薄妃の恋−僕僕先生』のことだ。

薄妃の恋―僕僕先生

薄妃の恋―僕僕先生

仁木英之は、第18回(2006年)に『僕僕先生』で日本ファンタジーノベル大賞を取っている。『僕僕先生』は、読み口が上の三人の受賞作とよく似ているのだ。すらすら読めて、かつ、けっこう来るときは来る。さわやかな余韻を残す読後。とにかく「すてき」な小説なのだ。

舞台は中国、玄宗皇帝の唐代。何万年も生きてきたらしいキュートな"美少女"仙人と、小金持ちの親を持った気弱なニート青年のロードノベルとも読めるし、青年の成長物語とも読める。

もう話は終わってしまったと思っていた。でも、僕僕先生と王弁青年が二年ぶりに帰って来ていた。知らなかったうっかりしていた。書店をブラウジングしていて見つけてしまった。早速買って来て一日で読んでしまった。

何と心地よい楽観主義にあふれた物語なんだろう!ストーブつけるほどでもないが薄ら寒い晩秋の日、いいなあ、こんな、ほんのりあったまる小説。
仁木英之。ぜひ売れて、ずっと楽しませてほしい作家なのだ。応援する。また『僕僕先生』の続きを頼む!



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