「ストレイト・ストーリー」「世界最速のインディアン」「モーターサイクル・ダイアリーズ」

ストレイト・ストーリー



ロードムービーを三作続けてみた。
ロードムービー」とは、主人公の長距離の旅を追いかけて物語が進行していく映画のことだ。旅のなかで、主人公は世の中や自分自身を見つめ直していく。だから、エピソードのほとんどは、人との出会いから織りなされている。

古典的な代表作としては、イージーライダーペーパームーン、ハリーとトント、パリテキサス、テルマ&ルイーズ、などがある。

今回の三作は、そのどれにも劣らない佳作ぞろいだ。


ストレイト・ストーリー
1999作品

73歳のじいちゃんが、350マイルをトラクターで6週間かけて旅する物語だ。目的は、10年前に喧嘩別れをして以来音信不通だった兄に会うこと。心臓発作で倒れたという。なんと時速5マイルの旅だ。実話に基づいている。
監督デイビット・リンチが映し出す、アイオワの州道を中心とした空気感がすばらしい。あんた、こんな映画も撮れるんだね…。尊敬しちゃう。


世界最速のインディアン
2005年作品

63歳のバイク好きのおっちゃんが、ニュージーランドの田舎町から米ユタ州へ旅する話だ。目指すは、スピード狂の聖地「ボンヌヴィル塩平原」、1920年製の老バイク"インディアン・スカウト"での世界最速だ。これも実話に基づいている。
魅力的な脇役たちや、レースというか時速200マイルのバイクの爆走シーンもすばらしいが、何といっても最高の見所はアンソニー・ホプキンスの飄々とした演技だ。どの映画を見ても違った表情をしている。プロ中のプロだ。この映画でも別の意味で人を食っちまっている。



ラクターの時速5マイルとインディアンの時速200マイルの違いだが、共に同じテイストで貫かれている。じいちゃんががんばっているのは言うまでもない。じいちゃんが、見ていて「はらはらする」程の善人たちに取り巻かれているのだ。こんな善人が、今でも、まとまって生息している地域があるのだろうか?

両作品ともじんわりと泣かせる。なぜだろう? きっと郷愁なんだろう。場所にではない、時代に対してのだ。この二人のじいちゃんが育った時代は、きっとこんな人間模様であふれていたのだろう。それへの郷愁だ。


モーターサイクル・ダイアリーズ
2004年作品



23歳の医学生が、親友と二人で、中古のおんぼろバイクに乗って南米大陸を縦断する話だ。もちろん貧乏旅行。無謀な旅だ。金も、泊まるあてもない。あるのは好奇心だけだ。南米大陸の様々な風景や人々との出会いが、ひとりの若者の人生を変え、歴史も変える。後年、彼は、親しみを込めて「チェ」と呼ばれるようになるのだ。
没年39歳。激動に自ら飛び込んだ若者は、じいちゃんたちのような善人に取り巻かれていなかったのだろう。

これも実話に基づいている。
実話と善意…。実際の世界はこんなに善意にあふれているのだろうか?
あふれていないからこそフィクションとして素直に感動できるのだとしたら、それはそれで悲しいことだ。