宇奈根『山中』、分倍河原『よし木』、フォース満喫の二日間

宇宙創生の秘密か?



どうしても「かき揚げ」が食べたい。と、突然思う。違う。「思う」のではない。「衝動」だ。
海老の天婦羅も食べたい。が、突然、衝動的に食べたいという、狂おしいばかりの思いは湧かない。イカもキスも、まして山菜やキノコなんて問題外だ。

かき揚げ」は特別な食べ物なのだ。かき揚げには宇宙創生の秘密と神秘が隠されている。

宇宙=コスモスに対して、人体が小宇宙=ミクロコスモスならば、かき揚げは「ナノコスモス」なのだ。自分でも何をいっているのかわからないが、とにかく、かき揚げなのだ。天婦羅という宇宙を構成するすべての要素がかき揚げには入っている。開闢以来、天婦羅のアルファでありオメガなのだ。自分でも何をいっているのか、ますますわからなくなった。ま、そんなことはどうでもいい。とにかく、かき揚げ、好きなのだ。

そんなわけで、どこでかき揚げを食べるかというと、この二店。宇奈根『山中』、分倍河原『よし木』だ。ともに特徴は「分厚さ」だ。ゆうに5cmは越える。が、タイプは正反対だ。

宇奈根『山中』のかき揚げは具だくさん。コスモスは星々で満ちている。海老や子柱等々の星々を、必要最小限の天婦羅粉がつなぐ。天婦羅専門店の正統派、ライトサイドのフォース満載のかき揚げだ。これに出会って以来、他の蕎麦屋かき揚げが満足できなくなってしまった。

唯一の例外が、分倍河原『よし木』だ。『よし木』のかき揚げは『山中』と対照的だ。もちろん具も豊富に入っている。しかし、ここでのメインは星々ではない。醍醐味はつなぎの星間物質にある。ひとたび箸を入れるや、ボロボロと崩れる星間物質。しかし、なんだ、このサクサクさは!これが、あの、宇宙の質量の大半を占めているといわれる「暗黒物質ダークマター)」というやつか。まさにダークサイドのかき揚げだ。


どちらに行こうか?迷う。(ゴシック体で)迷う。さらに(ボールドにして)迷う。(イタリック体で強調して)迷う。(フォントサイズを上げて)迷う。
決めた。両方行こう。休みは一日だけじゃない。二日ともいい陽気らしい。

というわけで、ポカポカ陽気の中、きちんと両店に行ってきた。

いろいろな理由でオフになってしまった金曜日。多摩川の川崎側をぶらぶらとポタリングした後、宇奈根『山中』へ。
平日の昼、オフィスが皆無のこの場所なのに、散歩がてらや、わざわざ車で乗り付けるお客さんで、ほど良い入り具合。良い店はどんな条件下でも繁盛するという好例だ。いつもながらご主人の手捌きと気配りが見事だ。だから、自信を持って、これほどのオープンカウンターを設計できたのだろう。これぞプロの技。

土曜日には分倍河原『よし木』へ。今日も引き続き、桜が咲きそうなポカポカ陽気。
ただし、この季節の多摩サイは要注意。風が強いのだ。太いブロックタイヤを履いたMTBでは、ここの向かい風はつらい。
幸い今日は、午前中は南風、昼から午後に南西から北西の強風に変わるという。往路は多摩川を避けて、調布から府中を通り、開店と同時に『よし木』に到着。今日は無事にかき揚げにありつけた。サクサクさを堪能。こぼれ落ちたダークマターも残さず拾ってごちそうさま。〆は当然二色せいろ。

「陽気はいいけど、帰りはアゲインストだね」とご主人。
「だいじょうぶだよ。だいじょうぶ、もうすぐフォローウインドに変わるはず。ごちそうさま」

予定通り、帰路は途中で追い風に変わる。しかし荒れ模様。すれ違う人たちの必死の表情を楽しみながら、多摩サイをすいすい。風上のヨット状態だ。「せこい」と言えばせこい。あえて「せこい」と言わなくても十分せこい作戦が成功。50キロの往復を満喫した一日だった。