だめな本屋の効用

ヤコブの梯子



便利な場所に良い本屋がない。

最寄駅は惨憺たるもの、というかほとんど脳死状態だ。
通勤途上もだめ。オフィスのあるエリアから、地下鉄に乗ろうと思うと、本屋はなんと!一軒もない。文化果つる地の門駅なのだ。
JR方面に行くとやっと一軒あることはある。が、ここもだめ。

そこそこの広さなのに、駄本の山だ。しかも並べ方が汚い。抜かれた本の補充がきちんとされていないので、棚に隙間があり、本が斜めになっていたりする。平積みは山が壊れかかっている。店員も直そうもしない。

店内にプロの書店員がいないんだね。アルバイトばかりなのだろう、商品に愛情が感じられない。しかもそのアルバイトさえ、広さに見合った数がいないみたいだ。だいたいこの書店グループはどこにいってもこんな感じだから、ま、ここも仕方ないか…。ここにこの店が「無かった」ことにして、行かなければいいのだ。

数年前までは、乗り換え時に通過する駅ビルに「ABC」があり、とても重宝していた。倒産後、別の書店グループがほとんど居抜き状態で入ったが、品揃えががらりと変わってしまった。
もともと女性客の多い店だったが、その後、女性向きの本がますます多くなり。おもしろそうな本にほとんど出会えなくなってしまった。

そうそう。このインターネット時代、わざわざ書店に足を運ぶのは、ジャケット買いができるからだ。もともとジャケ買いには自信があるし、直に触って「装丁」で本を選ぶのは、オンライン書店では味わえない、書店クルージングの楽しみなのだ。
新刊のベストセラーならば、駅前の上半身不随の本屋で眼をつぶって買えばいい。

「出会える」という意味で、お勧めの本屋はこんなところだろうか?
以前書いたものを引用しておこう。

  1. ジュンク堂、新宿店:
    品揃えは当然日本一。ディスプレーがすばらしい。紀伊国屋に喧嘩を売っている姿勢もよい。現在No.1だ。
  2. 東京堂、神田本店:
    1階の平積みが、俺たちがんばっていると主張している。上の階の専門書コーナーがすいていて(ちょっと上がりにくいんだよね)選びやすい。
  3. 談、浜松町店:
    ワンフロアで選びやすい。開店当時の通路の広さに感動した。場所柄かビジネス書が充実している。理想の書店はワンフロアだ。

    と、ここまでが好きな大型書店。以下、こんなところも行く

  4. 紀伊国屋、新宿南店:
    品揃えもよく、ゆったりしていて好感度が高い。が、行きにくい。ジュンク堂開店以後、役目は終わったか…?
  5. 書泉グランデ駿河台:
    フロアも通路も狭くてごみごみしている。しかし、理工系の品揃えが充実しているので、いやいやながら、ときどき行ってしまう。

話は唐突に変わるが、実は、わたし、活字中毒者だ。外出中、特に乗り物の中で本がないと手が震える。放置しておくと、羽虫は眼の前を飛びはじめるわ、皮下を蟻が這うわ、やがて小人が大名行列をはじめる。

本がきれると、症状が出る前に、途中下車してでも本屋を探しはじめるのだが、ほんとうに、最近は駅前にいい本屋がないのだ。
そのだめな本屋には読みたい新刊さえない場合、とにかく何かを買おうと、書棚を舐めるように探しはじめる。・・・・・。

そんな切羽詰ったときこそ、新刊のときは興味なかった、またはなぜかペンディングにしてしまった微妙に古い「必読本」に遭遇できるチャンスだ。知らないうちに文庫になってるやつもある。
突然、書店に梯子が出現し、小人の天使がお勧め本を持って降臨する、という奇蹟にも何度か出会った。

これは禁断症状の幻覚では、断じて、ない。
本の神は居る!
…か?