フィクションの中の曲ふたつのLOST(2)『暗く聖なる夜(LOST NIGHT)』


また、マイクル・コナリーの話になる。『暗く聖なる夜(LOST NIGHT)』だ。

銃弾に倒れ四肢麻痺となっている、ボッシュの元同僚の刑事ロートン・クロス。FBIテロリスト対策班に命を脅かされ、心ならずも屈服させられてしまったクロスをなぐさめながら、妻ダニーが歌うのが『この素晴らしき世界(What a Wonderful World)』だ。

サッチモ・ベスト/この素晴らしき世界

サッチモ・ベスト/この素晴らしき世界

その歌はわたしの知っている歌であり、彼女はそれを巧みに歌った。その声はそよ風のように柔らかかった。その歌の元々の歌い手はこの世の苦悩のすべてをそのかすれ声に乗せて歌っていたのだが。だれもルイ・アームストロングの足下にも寄れないと思っていた。しかし、ダニー・クロスはまちがいなくそばに迫っていた。


  青い空が見える
  白い雲も見える
  明るく、清らかな昼
  暗く、聖なる夜
  そしてわたしは、ひとりでこう思うのだ
  なんと素晴らしい世界だろう、と


マイクル・コナリー(著)、古沢嘉通(訳)、講談社文庫

どうだい、聴いて見たくないかい?

最初から、なぜ、原題「LOST NIGHT」に「暗く聖なる夜」という俗っぽい邦題をつけたのだろうと思っていた。ここにきて納得かも。訳者、古沢嘉通氏もここにインパクトを受けたのだろうか?

世の中には、この曲はこの歌手/演奏でなければ…、と思わせる幸福な出会いがたくさんある。その筆頭が、サッチモの歌う What a Wonderful World だと思っていた。ダニー・クロスの歌う What a Wonderful World はどんなものなんだろうか?
聴いてみたい。

実際に聴いてみると、がっかりさせられてしまうのだろうか?夢は夢のままにしておいた方がいいのだろうか?でもだいじょうぶだよ。『20世紀少年』のケンヂの歌のように、へたくそでもきっと感動させてくれるに違いない。