焼鳥、パチンコ、イスラエル

渋谷 鳥重



最後にパチンコをしたのは30年近く前だろうか。そうあの頃だ。

渋谷にオフィスがあり『鳥重』で一杯やって帰ることが多かった。そうあの有名なのんべい横丁の『鳥重』だ。今ではマスコミのおかげというかせいで超有名店だ。当時は知る人ぞ知る(書いて思ったけどあたりまえだね)コスパナンバーワンの穴場焼鳥屋だった。まだお兄さんがカウンタの中には入っておばあちゃんが焼いている時代の話だ。

やっと店が開く。カウンターの前に陣取る。でもこれからがまた永い。お兄さんがゆっくり支度をするのを気長に待つ。おばあちゃんが七輪の火をおこし始める。山盛りの大根おろしが出たのでそろそろかと思いオーダーする。お兄さんにやんわり叱られる。「奥の方から順番におうかがいします」。
順番が来る。何本も頼むと今度はおばあちゃんに怒られる。「うちのは大きからね。五本も六本も食べられないよ」。

最後に「もう帰れよ」代わりに出るスープがまたうまいのだ。塩味がまったく付いていなくてしかも脂っこい。醤油を入れた大根おろしの残り汁を入れるといい塩梅になる。このスープで一杯飲めると思いうっかりオーダーしてしまう。またおばあちゃんに怒られるのだ。
「いい若い者が長っ尻するんじゃないよ」。
すみません。

仕事帰りに数人で行く。まだ6時をちょっと過ぎたあたりだ。あの狭さだ。早めに並んでいないと入れないことも多い。まだ店は閉まっていて誰もいない。アホな話をしながら待っているとお兄さんが七輪を下げてゆったりとやって来るのだ。一時間以上待っても、そのまま来ないこともあった。
「どうも今日はお休みらしいですね」。と、やはり開店待ちの常連風の人と声をかわし、あきらめて他の店に行くことも少なからずあった。

そのうち、ひとりだけ残しておけばいいことに気がついた。ジャンケンをして負けた者が残り、残りの者はパチンコに行く。30分ごとにその日の玉運に見放された者が様子を見に行く。そろそろだぞと思うと、有無を言わせず出玉を精算して列に戻る。
そんな、中途半端な時間つぶしのパチンコで勝てるわけがない。たらふく食べて飲んだ『鳥重』の勘定は二千円足らずだがパチンコの負けが三千円と、結果的に割が合わないことが多かった。

それでも、あえて『鳥重』に通いたくなるほど圧倒的においしかったのだ。焼鳥屋でコップ酒で一杯やるのが趣味だったので、いろいろな店に行った。でも、あそこ以上の店には日本では出会ったことがない。

「日本では」と書いた。唯一の例外が、イスラエルに行くと必ず行ったパレスチナ人の村「ラムラ」のケバブ屋だ。イスラエルの食事環境が劣悪だということは以前書いたことがある。不味いもの好きのこのわたしが食べながら笑ってしまうくらい不味いのだ。でもだいじょうぶだよ。アラブ人の町に行けばおいしいケバブが食べられるのだ。

あの店…店の名前も忘れてしまった。また食べたいと思うが、イスラエルへ行くこともなくなって20年近くになる。最後にイスラエル訪問時も、空港まで迎えて来てくれたイスラエル人の友人に最初に言われた「危なからもう絶対にラムラに行くなよ。どんなに頼まれても車は貸さないからな」と。
今ではあのスークは跡形もないのだろう。悲しいことだ。

…と…。

『パチプロ・コード』伽古屋 圭市(著)を紹介しようと思っていたのだが、パチンコの事から昔話になってしまった。
『パチプロ・コード』、最近のパチンコのことがまったくわからないので、ひょっとして業界裏話というか情報小説だといいなと思って読み始めたがまったく違った。何なんだろうね、この本は。パチプロ探偵が活躍するミステリーというか暗号小説というかコンゲーム物というかコメディというか謎解きというか立ち位置が良くわからない。

第8回「このミス」優秀賞だ。小説としてしっかり楽しませてくれる。夢中になってページをめくってあっという間に読み終わってしまった。
すまん、他の話を書いてしまい本の紹介はめんどうになってしまった。良かったら自分で読んでおくれ。



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