マンガの様におもしろい小説『ボックス!』

百田尚樹 『ボックス!』 太田出版



マンガの様におもしろい小説を読んだ。百田尚樹・著『ボックス!』(太田出版)だ。「マンガの様に」というと怒られるかなあ。でも、それくらいスラスラ読めてしまうのだ。買い置きしたまま書棚の隅に積んであった。カバーがかかったままなので読み逃していた。合間に読み始めたのだが、途中でやめられず600ページ弱を二日で読んでしまった。

マチュアボクシングの話だ。
天才的なボクシングセンスを持った怠け者の高校一年生。その親友で不器用だが勉強ができる優等生。圧倒的な強さを持つライバル。あるきっかけで顧問になる美人教師。ちょっとした苦い過去を持つ部の顧問の先生。ボクシングに憑かれた老トレーナー。
・・・・・とくれば、ほら、もうストーリーがわかってしまうんじゃないだろうか。彼がその道に誘った彼がやがてどうなって、彼は彼のためにこんな決心をして、彼女がどうからんで、クライマックスでは彼と彼は彼とでこんな結末になってしまう…のだ。それを最後まで飽きさせず引っ張っていく筆力がすばらしい。

百田尚樹、ほんとうに凄腕の小説家だ。神風特攻隊だった祖父をテーマにしたデビュー作『永遠の0(ゼロ)』はしびれるほど感動させられた。短編のファンタジー集『聖夜の贈り物』にもつかまれた。知らないうちに新作も出ていた。『風の中のマリア』だ。主人公は最強の女戦士マリア。スズメバチの話らしい。こりゃあ、読まなくっちゃあ。

で、『ボックス!』だ。アマチュアスポーツをテーマにした小説には佳作が多いが、こんなに夢中になって読んだのは『風が強く吹いている』以来だ。小説としておもしろいだけでない。情報小説としての興味も満たしてくれる。プロのニュースはいやでも耳に入ってくるが、経験がないアマの世界のことって知らないことばかりなのだ。
『風が強く吹いている』を読む前と後では、箱根駅伝の見方が変わってしまう。『ボックス!』を読んだ今、無性にボクシングが見たい気分だ。できればアマがいいけど、TVでは無理そうだ。

アマに限らずマイナーなスポーツの裏側がわかる小説はおもしろい。

どちらかというと新進作家が多いみたいだ。しかも、ほとんどのスポーツの話は必然的に青春小説になることが多いので感情移入もしやすい。

でもベテラン作家もこんなのを書いている。学生テニス小説『青が散る』はいまだに宮本輝の最高傑作だと信じる。
プロを題材とした作品にもすごいのがある。海老沢泰久がスワローズ監督時代の広岡達郎をモデルに書いた、フィクションともノンフィクションともとれる作品『監督』なんてチビっちゃうくらいおもしろい。

『風が強く吹いている』は映画化されてもまもなく公開されるはずだ。どんな出来なんだろう。興味津々とともに観るのがとてもこわい。好きな小説の映画化ってとても恐ろしいものなのだ。基本的に受け入れがたいのだ。
でもだいじょうぶだよ、たぶん。『がんばっていきまっしょい』のように、とてもいい形で映画にもなった小説もあるのだ。

最初に「マンガ様におもしろい小説」と書いたけれど、「映画の様におもしろ小説」という言い方もできる。そうだね。そのうち、小説原作の映画とマンガについて書いてみよう。



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