百姓とIT技術者は生かさず殺さず
お役人様のお給料のお話をしていたのだった。その続きというか、ま、グチのようなものだ。
PRESIDENT誌(プレジデント)には『全公開!日本人の給料』なんて特集もあった。
やはりお役人様は高給取りみたいだ。だって、お勉強をして公務員になられた優秀な方ばかりそろっていらっしゃるから仕方がないよね。
職業 | 平均年収 | 人数 | |
---|---|---|---|
地方公務員 | 728万円 | 314万人 | |
国家公務員 | 628万円 | 110万人 | |
上場企業サラリーマン | 576万円 | 426万人 | |
サラリーマン平均 | 439万円 | 4453万人 | |
プログラマー | 412万円 | 13万人 | |
百貨店店員 | 390万円 | 10万人 | |
大工 | 365万円 | 5万人 | |
幼稚園教諭 | 328万円 | 6万人 | |
警備員 | 315万円 | 15万人 | |
理容・美容師 | 295万円 | 3万人 | |
ビル清掃員 | 233万円 | 9万人 | |
フリーター | 106万円 | 417万人 | |
(プレジデント 2008年11.17号より) |
中国の政治思想では、王たるものは天から委任を受けて、天下の人民を治める義務を負わされた者であるという。つまり、天帝の子、「天子」というわけだ。
といっても、天下は広く治めるべき人民は多いので、一人で治めることは不可能だ。だから、統治の手伝いをさせる者を人民の中から選ぶ必要がある。広く公平に優秀人材を登用するための制度が試験、科挙制度というわけだ。
「統治の手伝いをさせる」というところがミソだ。天帝の代理人である天子の代理人なのだ。試験は難しくて当然だ。お役人様は天帝の孫に相当するのだ。お偉くて当然だったのだ。
最近、縁があって公共団体の仕事をすることがあり、「入札」に参加することが多い。この入札が問題だ。といっても、入札自体が問題なのではない。「最低価格」入札というやり方が、だ。
これも、わかりやすい物品やサービスならば良い。問題なのは、我々が仕事とするIT関連での話だ。
誤解を恐れずあえて言う。システム構築とかWEB制作の価格って、有って無いようなものだなのだ。細部までこだわった作り方もできるし、手を抜こうと思えば限りなく抜けるのだ。価格から品質が見えにくいのだ。しかも発注する公共団体の担当者もITに詳しいわけじゃないので、わかりにくさが倍増する。値段が安いからと発注するととんでもないものが出来上がってくる可能性がある。
で、事前にいくつかの業者を選定しておいて、それぞれに仕様を提案させ、それをまとめた物を「仕様書」として公示するのだ。
これでは「一般競争入札」といっても、公示後の一般企業の参加は事実上不可能だ。その仕様自体が、ある特定の企業が得意とする技術からなっていたりする。閉鎖的な競争入札になってしまいがちだ。
といっても、これ自体を悪いことと言っているわけじゃない。ITの中でも特殊な分野ではしかたがないだろう。
ってことは「おぬしも悪よのう…いえいえお代官様程では…の世界なのね」とうらやむあなた。だいじょうぶだよ。そんなおいしい話じゃない。まるっきり反対。成果物のクオリティを考慮すると、むしろこの方式の方が税金のむだ使いにならないと思われるのだ。
問題は「仕様書」をつくる過程にある。提出した書類に対して何度も質問と回答を繰り返して仕様を詰めていく。最終的に、提案に対してそれぞれの機能の「工数」も書かされるのだ。これに一般的な「人月(にんげつと読む)」を掛け合わせれば、必要価格が見えてしまうのだ。
で、各社の提案の良いところを合わせて最終的な仕様を作り、最も低い工数を参考にして「最高落札価格」とする。
確かにこの方法だと間違いのない物が最低の価格で納品されるだろう。節税でもある。担当のお役人様の評価は上がるだろう。しかし、業者としては大変だ。この仕様でこの価格ではまったく利益が出ない。赤字の可能性もある。工程やハードウェアの具体名まできっちり書かされているのでカットする隙間もない。
そもそも、「きちんとした仕様書を作成する」こと自体に各社のノウハウがある。全仕様が決まっているということは、すでに納品までの数割が終わっているということなのだ。それをカットされてしまう。「ハード・ソフトの原価と純粋な労働力だけなら払ってやるよ」とお役人様が仰せになっているのだ。
でも、でも、それすら割り込んで、赤字覚悟で落札してしまう業者が必ずいるのだ。
ここが、原価が明確な物品の販売と違うところだ。納品物はソフトウェアだ。計算上は赤字でも、遊ばせている技術者がいれば、仕事になるだけでいい場合もある。特に派遣技術者切りにあっている会社が多い今はそうだ。どうせ遊んでいても給料の支払いは発生するのだ。何なら、サービス残業でも何でもさせればいいのだよ…。
こうして、多くのIT関連会社はブラック企業と化してしまうのだ。お代官様と越後屋の世界からはほど遠い業界なのだ。
そうなのだ。「百姓は生かさず殺さず」という古典的な賢い統治方法は、天帝の孫に相当するお役人様の身体に染み付いて、現代にもそのまま変わらず、IT業界に替わって生き続けていたのだ。
おっと、先程つい「節税」だと書いてしまったが、"仕様を決めさせる"ために高給取りのお役人様が何人寄ってたかって何ヵ月かけるか、という経費はまったく見込まれていない、ということは言うまでもないことだ。念のため。