弦楽合奏できく弦楽四重奏曲

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第14番



知人が弾いているアマチュアオーケストラを聴きに行った。活力のあるいい演奏だった。本当にいまどきのアマチュアオケってうまい。プロと紙一重だ。でも、その"紙一重"を越えるのが、実は難しいんだけど。

もう一つプロとアマを明確に分けるものがある。安定したクオリティだ。
で、このオケ、前回の演奏会はいただけなかった。気負った選曲が悪かったのだろうか。プロのオーケストラでもメインで演奏するようなテクニックと心理的なスタミナが必要な曲を二曲並べていた。

パート毎の練習中のできは良かったのだろう。団員たちの前評判は上々だったらしい。期待して聴きに行った。結果は・・・・・。だ。本番前のできが良かったのが裏目にでてしまったのだろうか、気負いばかりが先行してアンサンブルがバラバラだった。全員が精一杯、自分だけのために、弾いて吹いて叩いていた。

八分目の力の演奏だから"解釈"をする余裕ができる。周囲も見えるようになる。だからプロは練習に練習を重ねて努力をするのだ。どんな難曲でも八分目の力で演奏できるようになるまで。
わたしは努力が嫌いだ。でも何事も余裕を持ってやりたい。だから、いつも、結果として八分目の力しか出せないことになってしまう…の…だ。…というのは別の話だった。ま、読まなかったことにしておくれ。

で、今回。
マチュアオケを聴いているのにも"かかわらず"感動した。演奏自体に感動した。さぞかし団員は気持ちよく演奏しているんだろうなと思い、さらに感動した。こんなアドレナリン出しまくりのステージを体験したら、団員としてはやめられなくなっちゃうんだろうナア。

アンコールでまた良いものを聴かせてもらった。「カバティーナ(Cavatina)」だ。カバティーナといえばベートーヴェン弦楽四重奏曲第13番の第5楽章だ。本来、弦楽四重奏曲なのだが、こいつの"弦楽合奏"版だ。

パチパチとノイズだらけのフルトヴェングラー指揮のレコードを聴いたことがある。もちろん生でははじめてだ。弦楽四重奏曲弦楽合奏が他にないわけじゃない。フルトヴェングラーにはウィーン・フィルを指揮した、カバティーナと同じベートーヴェン弦楽四重奏曲の『大フーガ』がある。名盤と呼ばれている。

"ゲテ"クラシック音楽ファンの世界には、室内楽曲の弦楽合奏というジャンルが細々とではあるが存在するのだ。なぜかベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲弦楽合奏で演奏されるケースが多い。ゲテ好きとしてはこの手は見逃せないだけでなく、不思議な魅力あふれる名演奏が多いのだ。手に入る限り探して聴きまくった。

そのうちでも最高の名盤が、バーンスタイン指揮、ウィーン・フィルによる『ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131』だ。これはすごい演奏だ。バーンスタインウィーン・フィルの数々のレコーディングの中でも最上級の名演ではないだろうか。弦楽四重奏でも難しいといわれるこの曲を、弦楽合奏で一糸乱れず弾いてしまうウィーン・フィルの実力にも感心してしまう。しかもライブ録音だ。

そう、ベートーヴェンSQ14は難曲といわれているのだ。弾く側にとっても聴く側にとってもだ。技巧的音楽的に難しいだけでなく、耳になじみにくくとても"渋い"曲なのだ。全七楽章が切れ目なく演奏され、しかも長い。さらに、ベートーヴェンベートーヴェンたらしめている、ダイナミックな構成力にまったく欠けた不思議な曲なのだ。

でもだいじょうぶだよ。とっつきは悪いが何度か最後まで聴いてごらん。旋律の美しさに、ドラマチックな展開に、最後のカタルシスに、もう、病みつきになってしまうだろう。
ベートーヴェンで一番好きな曲と問われれば、躊躇なくこの曲を挙げる。一番好きな室内楽曲ならば、やはりこの曲だ。世の中に残ってほしい一曲といえばこれ『ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131』だ。

SP時代から、名盤名演奏はたくさんある。カペー、ブッシュ、バリリ、ウィーン・コンチェルトハウス、ブダペストアルバン・ベルクスメタナ、等々、名盤がそろっている。
どの演奏でもいい。不幸にして耳にしたことがなかったら、ぜひ聴いてみておくれ。渾身の八分目の力でお奨めする。



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