名前のない蕎麦屋

ツェッペリンIV 謎のシンボル



最近、アメリカの話が多いなあ。アメリカといえば「アメリカ」という名の好きなグループがいた。
1971年、アメリカがファーストアルバム『アメリカ』を発表したのはイギリスでだった。メンバーの三人は当時イギリス在住だった。でもAmerican Boyだったのだ。

『名前のない馬(A Horse With No Name)』は翌72年に全米No.1ヒットになった。

12弦ギターに乗ったさわやかなハーモニーと乾いた内容と題名…のアンバランスさが魅力的な曲だった。YouTubeで聴ける
こんな「ヤバげ」な題名の歌でも受け入れられるおおらかな時代だったのだ。

「名前がない」といえば、ビートルズがタイトルのないアルバム、その後通称「ホワイトアルバム」と呼ばれる二枚組を出したのは1968年。発売当時はクエスチョン混じりの評価が多かった盤だが、いまでは最高作と評価が高い。時代が後追いしたのだろう。

通称「ツェッペリンIV」と呼ばれるアルバムも名前がなかった。1971年リリースだ。「ブラック・ドッグ」「ロックン・ロール」「天国への階段」が入った盤だ。ロックの世界に"リフ"の時代を作った。

ともに、あえてアルバム名をつけなかったのは、時代は我々が作るという両グループの自負の表われだったのだろう。

名前のない飲食店ってやつもある。行ったことがあるのは、ラーメンとタイヤキ程度。全国的には、隠れBARにはけっこうな数がありそうだ。行き付けの店があるが書かない。書けない。書いてはいけない。

蕎麦屋にもあるだろうか?
調布市布田の玄関先で蕎麦を食べさせるあの店。ずっと、高橋さん家の軒下とか、弘法大師像(だったけ???)の前で食べる店…とかってに呼んでいたが、どうやら『徳兵衛』という名前があるらしい。店のどっかに看板がかかっていたっけ…?

で、今日、一軒見つけてしまったのだ。

ポタリング途中、わたしの中の一匹の獣(猫だけど)が鰹節のいい匂いに反応した。急ブレーキをかけた。見ると、眼下には鰹節が一面に乾されている。ニヤーオ。「営業中」とある。おおッ蕎麦屋だ。

なぜか店の横に、仁王様でもない何だかよく分かんな〜い像が置かれている。誰しもこれは何だろうと疑問を持つのだろう。ご丁寧に「大魔神」と札が下がっている。まさか、これが店名じゃないよね…?



ま、いいや。さっきかき揚げせいろを食べたけど、走って小腹も空いてるし。と。さっそく向いに自転車を止め入ってみる。

不思議な店内だ。奥行きのないテーブルが座敷に三卓。この座布団の置き方からすると、6人はひとの背中を見ながら食べるんだ…。後ろで3人組の酔っ払いが「田中の奴がさあ、また、あいつ、さあ…」なんて話をしていたら、すぐ前で背中を向けて座っている田中さんはいたたまれないだろうなァ。などとかってに妄想してみる。

そもそも、9人満席のところに入店して、蕎麦を手繰ってる最中の全員に、一斉に上目遣いで見上げられたら、ちょっと不気味な光景じゃないか。

幸い、客はわたしひとり。"お前は誰光線"を浴びることもなかった。メニューを見る。安い。もりそばときつねそばが、玉子とかまぼこの入った月見そばが同じ550円ってどういうこと?
ま、そんなことはどうでもいい。それよりも! 燦然と輝く!! 越乃寒梅!!! 600円!!!! の文字。今度飲みにこなくちゃア。



お奨めはときく。鴨せいろ、天せいろ、ぶっかけ…。絶対あの鰹節がかかっているのを食べたいと思い「ぶっかけ」を。鴨とか天とかが出てくると飲みたくなっちゃうからではない。

蕎麦自体は、まあこんなものだろう。普通においしい-1くらい。少なくとも町場の蕎麦屋のレベルはちゃんと越えている。でもすごいな、これで680円だよ。おいしく完食。きっと、この"おかか"がかかった「納豆」をうどんでワシワシ食べたらおいしいんじゃないだろうか。

満足して家に向かって走りはじめる。しばらくの間、わたしの中の一匹の猫はひたすら"おかか"を反芻して口の回りを舐めながら顔を洗っていた。
店名が「大魔神」かどうかはきき忘れた。だいじょうぶだよ。また来てきけばいいんだ。