クリストファー・ノーランのバットマン 『ダークナイト』

バットマン ダークナイト



ダークナイト』を観た。
上映中の映画のことは書かないことにしていたのだが、書いてしまう。噂通り「すごい」の一言だ。まだ観ていなかったら、すぐにでも映画館に駆けつけるように。

最悪のアメコミ映画化作品と化していたバットマンシリーズ。監督クリストファー・ノーランが『バットマン ビギンズ』で息を吹き込みなおしたのは、誰もが認めるところだろう。
そもそもノーランは、薄暗い画面の処理が巧みな監督だ。夜限定のヒーローであるバットマンにはうってつけだ。

ノーランは、わかりにくい映画を撮ることにかけても、人後に落ちない監督だ。作品数はそれほど多くない。

しかしどれも傑作だ。最新作『ダークナイト』以外はすべて複数回観ている。DVDで繰り返し、行きつ戻りつして観た作品もある。…というか、一度では全体像がわからないような複雑な伏線を張り巡らした脚本がほとんどだからだ。
フラッシュフォーワード、フラッシュバック。過去から未来へ、未来から過去へと時間軸が交錯する編集が多い。ノーラン監督の作風でもある。

狂気を描くのも上手い。狂気というと違うかもしれない。正確には「FANATIC:狂信者、熱狂的ファン、マニア」というべきなのだろうが、定義が面倒なのでここでは「狂気」としておく。

フォロウィング』では、創作のヒントを得るために、通りすがりの人々の跡をつけまわす作家志望の青年を。
メメント』では、妻の殺害犯を追う10分間しか記憶が保てない前向性健忘症の男を。
インソムニア』では、捜査中に誤って相棒を射殺してしまった不眠症の警察官を。
プレステージ』では、瞬間移動マジックに命をかける二人のライバルマジシャンを。
バットマン』シリーズでは、バットマン自身の狂気を。

そして、『ダークナイト』では、そのバットマンの狂気を圧倒的に上まわるジョーカーのFANATICぶりがすさまじい。若手実力派ヒース・レジャーの怪演にして28歳での遺作となった。すでにアカデミー助演賞候補といわれている。

得意技は、薄暗い画面処理、巧妙な伏線とオチ、狂気を抱えた男たちの描写。これにバットマンというわかりやすいエンターテイメント性が加わった傑作だ。
これでもかこれでもかと惜しげもなく繰り出される、怒涛の二者択一ゲームに引きずり回されっ放しの二時間半。しかも、あそこで、あの人物を殺してしまうなんて…。ノーランはもう続編は作らないつもりなのだろうか?

そう、その方がいいよ。このバットマンキャットウーマンが出てくることが想像できないわたしなのだ。男のマニアックな狂気を描くのは得意でも、女のヒステリックな狂気は表現しきれないと信じる。そもそも、ノーランは女性の撮りかたが下手でもある。スカーレット・ヨハンソンを最も平凡に撮った監督と、わたしの間では知られている。

先に、「わかりにくい」とか「一度観ただけでは〜」と書いてしまったが、だいじょうぶだよ、言い直そう。ノーランの作る映画はどれも「もう一度観たくなる映画」なのだと。
DVDはいつ出るのだろうか。

クリストファー・ノーランと大好きな『メメント』については、またいつか書こう。