コカイン戦争真っ盛りのボゴタ市で

メデジンカルテル パブロ・エスコバル



コロンビアといえば、昔はコーヒー、今はコカインだ。そのコカイン密輸組織中、現在最大といわれている「ノルテデルバジェ」の最高幹部、ディエゴ・モントヤが逮捕された。

かっての最大のコカイン密輸組織「メデジンカルテル」の最高幹部であったパブロ・エスコバルが治安部隊に射殺されたのは1993年だった。

1988〜1996年の間、コロンビアを中心に生活していた。ちょうどコロンビアでは麻薬戦争の真っ盛り。
政府とメデジンカルテルとの全面闘争は、89年8月のガラン大統領候補の暗殺以降本格化し、首都ボゴタ市で爆弾テロか銃撃事件がない日は皆無なほどだった。

爆弾テロに二回ニアミスをした。一度目は、かって泊まっていたホテルの地下駐車場でだった。

友人とホテル内のレストランで食事の約束をしていた。職場の近く、しかもアパートへの途中に位置することもあり、そのホテルおよび近辺のレストランへは頻繁に立ち寄っていた。待ち合わせのレストランに着くやいなや、鈍い爆発音と振動があった。いきないあたりが騒がしくなった。地下駐車場で爆発があったとのことだった。

その日は早めに着いていたし、いつもなら車で来て駐車している。たまたま今日は、友人と思い切り飲んでからホテル内のカジノで騒いで、自堕落に行くとこまで「行っちまおう」と約束していたので、車は置いて来ていた。本当に行っちまうところだった。

調合を間違えたのだろうか、幸い爆発は激しくなかった。建物自体の損傷は少なく、駐車中の車が数十台ジャンクになった程度だ。いつも私が停めるあたりだったのがいやな感じだった。待ち合わせていたそのホテルに泊まっていた友人は、まさに駐車場に入ったところで爆発に会い、爆風圧をじかに受け、「俺は死んだ」と覚悟したそうだ。でもだいじょうぶだよ。幸い死者はなく負傷者が5名程度という、メディアの扱いすら少ない軽い事件だった。

そうだろう。当時のボゴタ市では、こんなの軽い事件だ。

  • 反麻薬キャンペーンを張っていたエスペクタドール新聞社にカルテルの車爆弾がつっこみ、死者1名負傷者80名
  • 離陸直後のアビアンカ航空ボーイング727機がメデジンカルテルの仕掛けた爆弾により爆破墜落。乗客101人と乗員6人全員が死亡
  • ボゴタ市のDAS(米のFBIのような広域犯罪を取り締まる組織)本部ビルに、500キロのダイナマイトを積んだトラックが突入して爆発。DAS本部は半壊。未明にもかかわらず、62人が死亡600人が負傷
  • 大統領選挙直前。ボゴタの繁華街2ヶ所で爆弾テロ。死者17名負傷者114名

爆破事件だけでこんな大物が頻発していたのだ。その他、小競り合いや暗殺は数知れずという状態だった。

大物爆破事件のうち最後のやつにニアミスしている。
朝の通勤時間だった。いつもの通勤で通る場所で、「ちょうど」いつもの時間だ。

ただし、現地の人たちの忠告に従って、通勤ルートをランダムに変更するようにしていた。(その話はまたしよう)その日はたまたま、めったに通らない西寄りのコースを取っていた。
で、いま、こうして、この一文を書いている…、というわけだ。

その日は、事情を伝え聞いた仕事相手のコロンビア人たちが代わるがわるやって来た。「Hosanm、よかったな。やるじゃないか。おまえはすごい。ラッキーだったじゃない。いつもお慕いしています。えらいぞ。おめでとう。今夜はパーティね。とにかく、今夜はおごれよ!」と。その夜は、近所のカフェテリアを借り切って、皆でしこたま飲んで踊り、生を享受して騒いだ。
翌朝は、いっそあのとき死んでしまったほうが楽だった、と思うような頭痛とともに目覚めた。